それは電話の工事で起きた・・・

俺は高校卒業してすぐに電話屋になった。

 

電話屋って、引っ越したりしたときに電話とかネット回線申し込んだら家に来る人。

 

日本じゃ皆さんご存知のアルファベット3文字のでっかい会社の工事作業員。

下請けの下請けみたいな会社に所属してたけど、給料は別に低くなかったんで10年くらい続けてた。

 

パソコンに向かって1日過ごすのが苦手な俺にとっては悪くない環境。

作業車でお客の家をだいたい7から9件くらい回る。

配線して、電話線繋いで、電話とか使えるようになったら終わり。

 

色んな人ん家に上がるわけなので、毎回の作業環境は様々なわけ。

引っ越し終わってすぐのグチャグチャの家から整理整頓されてピッカピカの新築、俺の同情を誘うような寂しい一人暮らしの家やごみ屋敷みたいな家まで。本当この世の中色んな人がいるなぁって毎日思う。

 

その日は確か午前中の工事がいつも以上に押しちゃって、午後のお客さんを回る時間が遅くなってた。

秋から冬に変わるくらいの季節だったこともあって暗くなるのが早く、午前中の段階で結構焦ってた。

 

時間を取り戻そうと昼飯抜きに頑張ったけど、最後のお客さん家に向かう時はすでに午後の7時を回ってた。

 

お客さん家は閑静な住宅街にあって、車から降りてみると色んなとこから夕食の匂いがしてた。

「俺は昼飯も食ってないのに・・・」なんて思いながら準備を整えて、お客さんのインターホンを押した。

 

返事が返ってこない・・・。

家に明かりがついてないし、なんか玄関前も雑草伸び放題の怪しい雰囲気。

「もう遅いから出かけちゃったかなー」「不在だったらそっこーコンビニ行って飯だ」なんてことを考えてたら、

 

ガチャッ・・

 

中から50代後半のおばさんが出てきた。

俺の母ちゃんも同じくらいの年だったから俺の読みは間違ってないと思う。

そのおばさんはすごくやせ細っていて、化粧もしていなかったから家の雰囲気とマッチはしてた。

 

「遅くなって申し訳ございません」ととりあえず謝ると、「はぁ、いえ。どうぞ」と小さな声で家に入れてくれた。

 

家の中は、すごく物が多くてごちゃごちゃしてた。ゴミの臭いとかしなかったので一安心。

 

とりあえずこのお客さんのオーダー票を見てみると、電話線の劣化か何かで故障が起きている旨書いてあった。

「お電話の調子が悪いと伺ってますが・・?」と、とりあえず様子を聞いてみた。

「あぁ、なんかね、電話繋がらないことが多いんです。受話器上げてもよく聞こえなくて。あと、留守電がよく入ってるんだけどね・・・」って。

 

気になったので、「留守電も調子悪いんですか?」って聞いてみた。

 

すると、「いやぁ、ただ、たぶんね、間違い電話。結構多くてさ」と説明してくれたんだけど、そん時にのおばさんの顔が妙に強張ってたというか、何かを心配しているような感じだったのを覚えてる。

 

早速、調査を開始するため、とりあえず1階にある調子が悪いとされる電話機の受話器を上げてみた。

 

しかし、まったく反応がなかった。普通は「プー」って音が鳴るはずなんだけど。

んで、とりあえず電話機と壁の電話線コンセントをチェック・・・・・・・あれっ?

 

どうやら電話線はずっと2回から壁の隙間を配線されて一回まで下りて来てるらしい。

 

とりあえず、「2階に電話線が繋がってるところがあるみたいなので・・・」って断りいれて2階に行ってみた。

 

お客さんは1階のリビングに座ったきりで別についてくる様子もなし。

 

配線を追っていくと、書斎みたいな部屋にたどりついた。

電気をつけてみると、そこには小さな仏壇があってそこに中年くらいの男性と俺と同い年くらいの若い男性の写真があった。

 

「旦那さんと息子さんを亡くしたんかな・・・」

人の家に上がると、必要以上の情報が入ってくる。そん時はなんか悲しい気持ちになった。

 

そんなことを考えていると、突然、

 

プルルルル・・・・・プルルルル・・・・・・プルルルル・・・・・・

1階の電話が鳴り始めた。

 

何故だかお客さんは電話を取ろうとしない。

「お客さん!電話なって・・」って、そこで電話が切れた。

 

「ま、いっか。それより電話線の行き先だな・・・・」と調べていた時、衝撃的なものを見てしまった。

 

その電話線・・・・・・繋がってない!?

 

そんなことはないはず、いや、だってさっき鳴ってたし・・・・・・

 

するとまたしても電話が鳴った。

 

プルルルル・・・・・・プルルルル・・・・・・プルルルル・・・・・・

 

2回目はすぐにお客さんを呼んだ。だけどずっと無視している。

すると電話は突然、留守番電話に切り替わった。

 

「ただいま電話に出ることができません。ご用件の方は・・・・・ピー」

 

「あ、あ・・・・もしもし、おかあさん?なん・・だ・・・あ、どう・・・・」

 

途切れ途切れで何言ってるか全然わからない。ただ、お母さんっては聞こえた気がする。

俺はこの電話線が繋がってないこの状況で誰かが電話してきている事実と、その1階から聞こえるその声が家中に響きわたっていてとても怖くなった。

 

これってもしかして・・・やばいやつじゃないか?

 

そして3回目の電話。

 

「お母さん・・・どう・・・・かえって・・・・あ・・・あ・・・・う・・・」

 

やばい、やばい。お客さんの反応があまりにもなさ過ぎて、この家に俺一人だけのような気になった。

 

ふと仏壇の写真が目に入ってきて、

「この、息子さんらしい人が電話してきてんのかな・・」なんて考えた瞬間、もう駄目だと思った。

 

すぐに1階に降りて行って「原因がよくわかりません、ただ新しく線を引いたほうがよさそうです。ただ、その工事は日を改める必要がありますね・・・」なんて適当なこと言ってみた。

 

お客さんは意外にも、「あぁ、そうですか」と納得してくれたので、これで帰れるとホッとした。

 

「この電話機持って行ってくれませんか?」

 

え?なぜだ。電話機は全然使えてるのに・・・。電話線なしでも・・・・・

 

「いえ、再度工事をした後で、正常に使えると思いますけど・・」と言うと、

 

「新しいのを買おうと思ってるから・・・・持って行ってちょうだい」っと一向に引く気配がない。

 

もうとりあえず早く帰りたかったので電話機をもって帰ることにした。

 

だけどさ、電話機取り外そうとしたんだけど、これ、電源コードもコンセントにささってなかった。

 

もうわけがわからなくなって、急いでその家を出た。

 

心を落ち着かせるために事務所に戻る途中にコンビニによってタバコを吸いながらコーヒー飲んだ。

 

「待てよ、電話線も繋がってなければ、電話機に電源すら入ってなかったぞ・・・」

「そもそもよ、客はそれを知ってたのか?・・・・」

 

同じような質問が頭の中でぐるぐるしてた。

 

「いやいや、怖すぎるでしょ・・・もう忘れよう」と事務所に戻るため車のエンジンをかけようとした時、

 

プルルルル・・・・・・プルルルル・・・・・・プルルルル・・・・・・

 

車の後部座席から電話が鳴った。

 

もう、なんていうか、体が全く動かなかった。完全に硬直状態。

 

そして留守番電話のアナウンスが流れた後、

「おかあさん、あ、かえして・・・・また・・・いくからね・・・・」

 

そんな感じに聞こえた。もういい大人が車で泣いてた。怖いという感情をはるかに通り越していた。

 

「なんでなんだよぉぉー・・・・」

 

はっきりと、ただすごく悲しそうに電話の主はそう言い残して電話は切れた。

電話切れた後もしばらく動けなかった。

 

電話機コンビニで捨てていきたかったけど、登録情報とか個人情報に関わるものが登録されている関係上、お客さんからの回収物は必ず事務所に持って帰るのが原則だった。

とりあえずクレーム覚悟で音楽をガンガンかけて事務所まで帰った。

 

事務所についてからすぐに電話機をゴミ捨て場に捨ててこのことは忘れることにした。

ネタにして同僚に話すのはなんか違う気がしたんだよね。

 

結局あの電話の主は未だに分からない。なんで回線も電源もなしに電話機が動いたかも。

ただ、あの電話の主とお客さんの家庭の事情は間違いなく関係があると思う。

 

ずっと電話屋してて、怖い体験はこれだけ。

最新情報をチェックしよう!

長編の最新記事8件

You cannot copy content of this page