半ば強引にMのアパートに泊まる羽目になった私は自転車を押してMとアパートへ向かいながら
私「まだ居てたらどーするよ?」
M「居ない様な気がする」
私「何で解るん?」
M「勘だけど…」
私「しかし…何があったんやろな。あの部屋で」
M「さぁな。でも…これもあくまでも勘だけど、あの部屋で死んだとかでは無い気がする」
私「ふ~ん…ほな、余計私には解らんな」
M「自縛かな…でも…それとは又、違う様な…」
そんな話をしながら歩いて居ると、やがてMのアパートが見えて来ました。
アパートの前に自転車を止め、ゆっくり階段を上がり、部屋の前まで来ました。
私「…どうよ?」
M「多分…今は居ない」
二人で部屋の中に入りました。
恐る恐る部屋を見回すと…Mの勘通り女は居ませんでした。
私「出て来る前と何か変わった所あるか?」
Mは部屋中を見て歩き…
M「コンポの電源が消えてる…」
私「出て来る時に消したんちゃうの?」
M「鍵すら掛けて無いのにか?財布持って出るのが精一杯だったんだぜ?」
私「ほな、誰が消すんよ??」
M「あの女だろうな…」
私「マジか!節電か??」
M「なら、電気も消すだろ」
私「一見したら普通の部屋だよな…?」
M「まぁな。私は最初から嫌な感じだったけどな」
私「お前、引っ越す前にお母さんに見て貰わなかったん?」
M「うん。ちょうど、見て貰おうと思ってた日にAが熱出して寝込んでてさ。だから、もう良いや。って思ってそのまんま引っ越した。Kは霊感0だしな。霊なんてこの世に居ない!ってもし、話しても絶対信じないし」
私「お前、身体に障るから寝た方が良いんちゃう?居ない内に」
M「そうだな」
私は手前の六畳に布団を敷き、Mは奥の六畳のダブルベッドで寝る事にしました。
私は部屋が真っ暗じゃないと寝れない質なんで豆電も消して、布団に入りました。
何分位経ったでしょう。
小さな「ボンッ」と言う音がして、勝手にコンポの電源が入り、赤い電源ランプが点りました。
(は??何?)
私は暫く、暗闇の中に点るコンポの赤い電源ランプを見つめて居ました。
すると次は…
「カタカタカタッ…」
(え??今度はなんだ?)
「カタカタカタッ…」
(なんの音だ?どっから鳴ってる?)
布団の中で固まって居ると…
「ガタガタッ!ガタガタッ!」
(!!なんだ!これっ!)
私は布団から飛び起きて電気を点けました。
Mが襖を開けて顔を出して「お前、さっきからガタガタうるせーよ!何してんだよ?」
と、文句を言って来たので私は「私は何もしてねーよ!勝手にコンポが点いたと思ったら、今度はガタガタ鳴り出したんや!」
M「コンポが勝手に点いた?」
私「あぁ。その後の音はどっから鳴ってたんやろ?電気点けたら静かになった」
M「又…出て来る気か…?」
私「嘘やろ!?」
「カタカタカタッ…」
M・私(!!)
二人で部屋を見回して居ると…
「カタカタカタッ…」
私「M!あれっ!」
私が指差したのは
台所が狭くて置けなかった大きな食器棚。
その上に乗せてあったオーブントースター。
そのオーブントースターがカタカタと音を立てて小刻みに揺れてるんです。
二人で呆気に取られて見つめて居ると…
「ガタガタッ!!」
小刻みに揺れていたオーブントースターが、激しく揺れ出しました。反動で蓋が開いたり閉まったりする程の勢いで。
私「なっ…何やねん!あれっ!」
M「……。」
私「なんぞ言えや!」
M「S…」
私「あ?何やねん!」
M「台所…」
私(!!)
私「誰か居てる…?」
台所と手前の六畳を仕切るすりガラス戸の向こうで人影が動いて居ます…。
影でも分かる長い髪。女です。
私「写真の女か…?」
M「多分な。さっきは顔だけだったけどな」
私「顔だけ??」
M「あぁ。隣の六畳の天井の角に顔だけ浮かんでた」
私「どーするよ?」
M「お母に電話する」
Mは隣の六畳から子機を持って来ると、お母さんに電話しました。
時刻は午前2時過ぎです。
3コール程でお母さんが出ました。
M「お母?」
母「M?何時だと思ってんのよ!」
M「ごめん…」
母「何かあったの?お腹痛いの?」
M「違う。ヤバイ…。この部屋」
母「ヤバイ?何か居るのか?」
M「あぁ。女…」
お母さんはため息を付き「Kくんは?仕事?」
M「うん」
母「あんた一人?その、女は別にして」
M「Sが来てくれてる」
母「今から二人でこっちに来な」
M「解った。でも…台所に女が居る。玄関行くには女と対面しなきゃ出れない」
母「対面するしか無いね」
M「人の事だと思って!!」
母「借りる時に何も感じ無かったのか?」
M「感じたけど、Kが気に入っちゃってさ」
母「引っ越す前に何で私に言わないのよ?」
M「来て貰おうと思ったけど、Aが熱出して寝込んでる。って言ってたじゃん」
母「あぁ…。あの時、電話して来たのその用事だった訳ね」
M「そうだよ」
母「まだ、台所に居る?」
Mは受話器を耳から外し、台所の様子を伺って居ます。
私「居なくね?さっきまで影動いたけど見えんくなったよな?」
Mは受話器を又耳に当て「居ないかも」とお母さんに言いました。
母「直ぐに来な。良いね!」
Mは電話を切ると「お母が今から直ぐ来い。って。行こう!」
私「行こうは良いけど、ホンマに居らんくなったんか…?」
Mは台所に神経を集中させて居ます。
M「居ない。多分…」
私「多分…って…」
M「開けるぞ!」
Mはすりガラスの戸に手を掛けました。
(ゴクッ…泣)
私は生唾を飲み込むと、深呼吸をして
私「解った。開けろ…」
Mは思い切りガラス戸を開けました!
M・私「居ない…」
M「今だ!出るぞ!」
私「電気は!」
M「そのまんまで良い!早くしろ!」
二人で押し合う様に外へ出ると、今度はしっかり鍵を閉めて、廊下を走り階段を駆け降りました。
私は自転車の鍵を外すと「早く乗れ!」
Mは部屋を見上げて居ましたが私が自転車に股がると後ろに乗って来ました。
私は必死に自転車を漕いでMの実家へと急ぎました。
Mが背後から「さっきさ…お前が自転車の鍵開けてる時に私、部屋の方見てたんだけど。アイツ…居たよ」
私「何処に??」
M「手前の六畳電気点けっぱなしで来たじゃん?だから、ドアの隣の台所の窓から明かり漏れてたじゃん?そこに。」
私「そこに。って、台所の窓にか?」
M「うん。張り付いてた」
私は自転車を急停車させると、Mの方に振り向き「張り付いてた??窓にか?」
M「危ないだろ!何で急に止まるんだよ!私は妊婦だぞ!」
私「悪い!でも、張り付いてたん??」
M「うん。張り付いて私らの事見てた様に見えた」
私「気持ち悪っ!大丈夫かよ、あの部屋」
私は又、自転車を漕ぎ出し、やがてMの実家に着きました。Mの実家は団地の3階。
時刻は既に午前3時を過ぎて居ました。
Mの実家の部屋だけポツンと明かりが点いています。
私達は3階へと急ぎました。
Mがピンポンを鳴らすと直ぐに鍵を開ける音がして、お母さんが顔を出しました。
母「入りなさい。S!悪いね。こんな時間に。あんたも入って」
私達は部屋に入りました。
Mは最初にあのアパートを見た時の嫌な胸騒ぎや、押し入れにあった集合写真、一人だけ笑って無かった女、不動産のおばちゃんが写真を奪い取った話から昨夜までの出来事の全てをお母さんに話しました。
母「ふ~ん…。写真ねぇ…。その女は、その写真の中で一人だけ笑って無かった女に間違い無いんだね?」
M「うん。間違い無い」
母「何だろうね…」
M「私の勘だけど、あの部屋であの女が死んだとかでは無い気がするんだけど」
母「うん。違うみたいだね。きっと死んだのは別の場所。でも、お前の部屋にかなり執着してるんだろうね。…住んでるんだよ
M「住んでる?」
母「そう。お前より先に住んでた。で、今も住んでる」
M「今も…住んでる…」
母「邪魔だろうね 」
私「邪魔??」
母「Mが。だって、自分が住んでる部屋に違う人間住み始めたら邪魔でしょ?」
私「それは…邪魔やな…」
母「でしょ?だから、追い出そうとして来たんじゃない?」
私「ほな、あそこにずっと住んだら…?」
母「ヤバイだろうね。今回のは単なる脅しじゃない?出て行け。って言う。で、あんた達は逃げて出て来た。喜んでんじゃない?今頃」
M「又、私らが戻ったら?」
母「そりゃ、怒るでしょ?せっかく追い出したのに戻って来たら」
M・私「………。」
母「まっ。とにかく、今日は寝なさい。明日、お母さん仕事休むから一緒に見に行ってあげるから」
M「解った…」
こうして私達はMの実家でゆっくり眠る事が出来ました。
翌日昼過ぎに目覚めた私達にMのお母さんが「そろそろ行ってみようかね」と言って来ました。
私達三人は歩いてMのアパートへ向かいました。
誰も喋ろうとはしませんでした。
やがて、アパートが見えて来るとMのお母さんが「あれだね?」
(お母さん、Mのアパート知らないのに。
他にも近くにアパートあるのに。
相変わらずだよ。この人…)
真っ昼間にMのアパートへと戻って来たMと私に初めてやって来たMのお母さんの三人は二棟並ぶアパートの前で足を止めました。
母「あの部屋か…」
M「どの部屋か解ったのかよ?」
母「右側の棟の二階の真ん中だろ?」
(あんた一体何者よ!)
M「さすがだね」
(変な親子だよ…関わるとろくな事無い。ヤバイ親子だよ…)
母「う~ん。マズイ所借りたねぇ。相当手強いよ。住み続けるならそれなりの覚悟が必要だね」
M「そんな気がしてた」
(どんな気だよ!)
母「入ってみようかね」
私達は階段を上がり、部屋の前まで来ました。Mが玄関の鍵を開けます。
お母さんが一番最初に入りました。M「あれ?電気消えてる!」
私「ホンマや!」
母「どこの電気?」
M「その、手前の六畳の」
母「消してくれたんだね」
M「又、コンポも消えてる!」
母「節電だね笑笑」
M「笑うな!」
(やっぱ、節電やん…)
母「あんた、電話貸して」
お母さんはMから子機を受け取ると、何処かへ電話を掛け始めました。
母「あっ。お母さん?今日、Aの事預かってくれない?私、ちょっとMの部屋に泊まりたいから。ううん。お腹の子は大丈夫。お願いね!夕方Aに電話して、行く様に言うから」
お母さんは電話を切ると「今晩私が泊まってあげる。Kくんに連絡つかない?」
M「ベル鳴らすわ」
※私達が十代の頃はまだ、携帯が余り出回って無くて、ポケベルが主流でした。
今の若い方は知らないでしょうね笑笑
MがKさんのベルを鳴らしてから30分位してKさんから電話が掛かって来ました。
Mのお母さんが電話を代り今夜はアパートに帰って来るな。友達の家か実家に泊まれ。と話して居ます。今夜は私とSが泊まるから。と。
(ん?私とSが泊まるから??えーっ!私…又泊まるん泣)
お母さんは電話を切ると「トラックで寝るって。そのまんま明日又仕事だから次帰って来るの、明後日だってさ!」
(意味解らん…何で私まで泊まる事になるんだ?)
こうして仕切り出したMのお母さんのお陰で私は又、Mの部屋に泊められる事になり、更なる恐ろしい体験をさせられる羽目になるのです。
ー続くー