いきなり仕切り出したMのお母さんのお陰で、私は又、決して長居はしたくないMのアパートに泊まらざるおえない状況に追いやられました。
母「さてさて。昼間っから登場するかしらねぇ~笑」
(良く笑ってる余裕あるよ。ホンマ、この人一体どんな感覚してんねん)
母「そういや、お腹空いたよね?この辺に何か食べる所ある?」
M「良く、飯食う気になるな?」
母「腹が減っては戦は出来ぬ。って言うでしょ?あんたも妊婦何だからちゃんと食べなきゃ駄目よ。Sも、これからに備えて腹ごしらえしとかなきゃね!奢ってあげるからさ笑」
(これからに備えて…ってなんすかぁー!余計食欲無くなるわ…)
Mと私はMのお母さんに引きずられる様にアパートから少し離れた所にあるファミレスに連れて行かれました。
Mと私は寝不足なのもあり、食欲がわきませんでしたがMのお母さんはパクパク食べながら「あんた達も早く食べなさいよ!」
M・私「……。」
母「全く、根性無いんだから」
(根性で、どうにかなる事なのか…)
Mと私は何とか無理矢理食べました。
ファミレスからの帰り道、Mのお母さんが
「M!あんた、これからもあの家に住むつもり何じゃないの?」
M「住みたくは無いけど、今すぐ引っ越す金なんて無いしさ。Kはあの部屋気に入ってるし、霊感無いからなんも感じないだろうし」
母「なら、もっと強気で行かなきゃ。勝てないよ!」
(勝つとか負けるとかあるんか?やっぱ、私には解らん…)
部屋に着くとMのお母さんはお風呂を掃除して沸かし、たまっていた洗濯をしたりと動き回り、夕方Aが学校から帰って来る時間になると家に電話をしてAに今夜はお祖母ちゃんの家に泊まる様に言うと、テレビを点けて見始めました。
M「一体、どう言う神経してんだ。あの母親は」
私「ある意味、霊より最強なんちゃう」
M「本当だよ。良くテレビ見てヘラヘラ笑ってられるよ」
母「あんた達、何さっきからブツブツ言ってんのよ!まだ、出て来ても無いのにビクビクしてんじゃ無いよ」
(強い…。この人なら、あの女追い出せるんちゃうんかな…)
やがて、夜になり三人順番にお風呂に入り、昼に余り食べなかったMと私はやっとお腹が空いて来てコンビニ買い物に出掛けました。
私「お母さん、良くあの部屋に一人で居れるわ。私なら無理やわ」
M「私は住まなきゃならない」
私「私なら住めない」
M「住まなきゃならない人間の前で言うな」私「ハハハッ笑笑」
M「笑うな!全く、どいつもコイツも、腹立つわ!」
そんな会話をしながらアパートに戻るとMのお母さんは鼻歌を唄いながらドライヤーで髪を乾かして居る最中でした。
M「あんた、緊張感とか無いの?」
母「無いわよ~♪♪」
M(#`皿´)
私「ハハハッ…汗」
Mと私はコンビニで買って来た物を食べ、暫くテレビを見て居ると昨夜の疲れがまだ残っているのもあり、眠くなって来ました。
時計を見ると10時を少し過ぎた位でした。
母「あんた達眠いんじゃないの?寝たら?」
M「そうするわ」
Mと私は奥の六畳にあるダブルベッドで二人で寝る事にしました。
どれ位時間が経ったでしょうか。
私はMに起こされました。
私「ん?今、何時や?」
M「夜中の1時過ぎ」
私「どないしたん?出たか??」
M「隣の部屋…なんか、聞こえないか?」
私「…?お母さんまだ起きてるんかな?」
Mはそっと起き上がり襖を少し開けました。豆電球の灯りが僅かに入って来ました。
M「お母は寝てる。気のせいか?なんか、聞こえた様な気がしたんだけど…」
私「夢でも見たんちゃう?ってか、トイレ行きたくなった」
M「行って来いよ」
私「一人で?」
M「しょうがねーな」
Mと私はお母さんを起こさない様に、そっと布団の横を通るとすりガラス戸をゆっくり開けて私はトイレに入り、Mは台所で待って居ました。
Mのアパートのお風呂とトイレを仕切る壁にはやはり、すりガラスの小さな引き戸みたいのが付いていてお風呂からトイレを、トイレからお風呂を覗ける変わった造りでした。
私は用を足し終え、立ち上がろうとした時その小さな引き戸から強烈な視線を感じました。
(アカン。居る…)
私は目を瞑って立ち上がりましたが、どうしても気になって目を開けてしまったのです。
引き戸が全開に開いていて、戸の燦に女の顔が乗ってました。
こちらを凝視しながら笑って居ました。
いや。口元は笑ってるけど目は笑ってない感じ。
私は「いやぁー!!」っと叫ぶとトイレから飛び出しました。
Mは驚いた顔をしながら「ちゃんと流して出て来いよ」
私「出たよ!」
M「出しに行ったんだろ笑」
私「違うわ!あの女だよ!」
母「何処に?」
いつの間に起きたのか、お母さんが聞いて来ました。
私「トイレとお風呂の壁の小さい引き戸の燦に顔が乗っかってた!こっち見て笑ってた!」
お母さんはお風呂場のドアを開けて、お風呂場から引き戸を確認しましたが既に消えていた様です。
母「S。居ないからトイレ流しなさい」
私「はい…汗」
トイレを流してドアを閉めると三人で手前の六畳に戻りました。
M「何処に消えたんだろ…」
Mのお母さんは奥の六畳の半分開いた襖の奥を黙って見つめて居ます。
母「居るね。あっちの部屋に…」
私は心臓が口から出るんちゃうか?位バクバクして居て息苦しい位でした。
母「M。塩ある?」
M「待って!」
Mは台所の戸棚から粗塩の袋を持って来て、お母さんに渡しました。
お母さんはMから塩の袋を受け取ると、スッと立ち上がり開いている襖の奥目掛けて粗塩を撒きました。
途端に「ふふふふっ…」と言う女の笑い声がしました。
私は腰が抜けて、その場にへたり込みました。
Mは立ったまま、襖の奥を睨み付けて居ます。
母「あんた、もう死んでるんだよ。いつまでもこの世に居たら上に上がれなくなるよ!」
「ふふふふっ…」
母「何が可笑しい」
「ふふふふっ…そんな物効かないよ」
(何が効かないんや?)
母「塩なんて効かないってさ。どっか行ったね。多分今日はもう出ないから寝なさい」
(いや…寝れんやろ…普通の神経やったら)
M「解った。寝よう」
(寝れるんかい!)
ベッドに戻るとMは直ぐに寝息を立て始めました。
(ホンマに寝よった!頭おかしい!)
私はその後一睡も出来ぬまま、朝を迎え家に帰りました。今後二度とあのアパートには近づかん!と、固く心に誓って。
Mはそれからあのアパートに3年も住み続けました。Kさんの浮気が発覚して離婚するまで。
3年の間、毎晩の様に女は現れMに「出て行け。ここは私の部屋だ」と言い続けて居たそうですが、M曰く「毎日続くとさ、人間って不思議なもんで慣れるんだよ笑」
(そんなもんに慣れた無いわ!)
Mと言い、Mのお母さんと言い、一体何者なんやと益々意味が解らなくなった体験でした。
MとMのお母さんに巻き込まれて、この後私も結婚するんですが、まだまだ色々体験して居るのでそれは又の機会にお話します。