冷たい床を這って来る…

旦那さんのKさんの浮気が発覚し、離婚する事になった私の親友Mはリアルお化け屋敷の様なアパートを出て、実家へと戻りました。

普段は元気なMですが、幼い時から喘息を持って居てたまに酷い発作を出しては入院する程でした。

今回、Kさんとの離婚でストレスが溜まって居たMは実家に戻って半月もしない内にこれまでに無い位の酷い発作を起こし、救急車で夜中に病院へ搬送され暫く入院する事になったのです。

 

今回はMと私がMの搬送先の病院で体験したお話をしたいと思います。

 

酷い喘息発作で病院に搬送されたMは、相部屋が空いて居なかった為、個室へと運ばれました。

 

入院から2日程で、症状は大分良くなり病院内を歩いたり出来る様になり、私にも連絡が来たので翌日お見舞いに行く約束をしました。

 

その夜、Mは発作が苦しく2日程ろくに寝て居なかった為、早い時間からウトウトしてしまったので夜中に目が覚め眠れなくなり、ベッドのスタンドを点けて妹のAの差し入れの雑誌を読んでいました。

 

 

ペタッ…

 

ズルッ…

 

 

(!?…何だ??)

 

Mの病室は3階で長い廊下の突き当たりに有りました。

 

 

ペタッ…

 

ズルッ…

 

(何の音だよ。気持ち悪いな)

 

ペタッ…ペタッ…

 

ズルッ…ズルッ…

 

Mはベッドの上で耳を澄ませて居ましたが、段々とその音が自分の病室へと近づいて来て居る様に感じ、ゾワッと鳥肌が立ちました。

 

ペタッ…ペタッ…ペタッ…

 

ズルッ…ズルッズルッ…

 

Mはそっとベッドから降りると足音を忍ばせてドアの前まで行くとスーッとドアを顔が出せる程度開け、薄暗い廊下の先を見ると…

 

ペタッ…ペタッ…ペタッ…

 

電気が消された廊下は薄暗く、点いて居る明かりと言えばMの病室の横にある非常口の緑の電気と廊下の先にあるナースステーションから漏れる明かりだけ。

その薄暗い廊下を誰かがこちらに向かって這って来て居るのです。

 

ペタッ…ペタッ…ペタッ

 

ズルッ…ズルッズルッ…

 

まるで赤ちゃんがハイハイして居る様に…

 

目を凝らして見て居ると、どうやら髪の長い女の様です。

下を向いたまま、ゆっくりゆっくりと這って来るのです。

 

(ヤバイ…。コイツはヤバイ…。どうしよう)

 

Mはそっとドアを閉めるとベッドに急ぎ、ナースコールを押しました。

けれど、何度押しても応答が有りません。

ナースステーションはあの女の先にある。

Mは必死で考えました。

 

(そうだ!非常口!)

 

でも、非常口に行くには嫌でも廊下に一度出るしか有りません。

 

ペタッペタッペタッ…

 

ズルッズルッズルッ…

 

 

(さっきより早くなってる!)

 

これ以上考えている余裕は有りません。Mは意を決してドアを開け、女の方へは目もくれず非常口のドアを開けると階段を駆け降りました。

喘息発作で入院して居る人間とは思えない勢いで一気に階段を一階まで。

 

一階まで辿り着くと、明かりの消えた受付カウンターが見えました。その向かいにはガラスの自動ドア。

Mは自動ドアの前まで来ましたが、やはりこんな時間には開きません。手でこじ開けようとしましたがびくともしません。

 

 

まだ、あの女は来て居ない様です。

 

(どうにか外に出れないかな…)

 

Mは辺りを見渡しました。

 

診察室やトイレ等が並ぶ廊下を歩いて行くと、窓がありました。

Mは窓を開けると、窓を乗り越え外に出ました。

足元はスリッパでしたが、構ってられません。

 

Mは、電話ボックスを探し実家に電話しました。

 

時刻は夜中の1時過ぎ。

 

母「もしもし?」

M「お母!」

母「M!?どうしたのよ?病院から掛けてるの?」

M「いや。外」

母「外って?入院してるのに何で外に居るのよ!」

M「ヤバイ。変なの居る。あの病院。今から帰る。帰ったら話す」

母「今から帰る?はぁっ…(ーдー)入院してる人間が朝消えてたら病院大騒ぎだよ…。仕方ないか。朝電話するわ。解った!帰って来な!」

M「スリッパ何だけど…」

母「はぁーっΣ( ̄皿 ̄;;迎えに行くわ!(怒)」

M「すいません…笑」

 

Mが搬送された病院はMの実家から車で15分位の距離でした。

 

Mは電話ボックスを出ると、病院の前まで戻りました。

 

暫くしてMのお母さんが車でやって来ました。

 

Mは急いで助手席に乗り込みました。

 

M「ありがとう!ごめん!こんな時間に」

 

母は答えず、病院の入り口のガラスの自動ドアの方を見つめて居ます。

 

M「お母!?」

 

母「え?あっ!じゃ、帰るよ」

M「うん…」

 

家に着くと、お母さんは

 

母「明日の朝病院に電話するわ。もう2~3日入院した方が良い。って言われてんだから、明日ちゃんと戻るんだよ!」

M「さっきさ、何か見てた?」

母「あぁ。居たよ。自動ドアの直ぐ向こう側に。髪の長い女だった」

M「這ってただろ?」

母「いや。立ってたよ」

M「立ってた?」

 

(立てるなら、這って来るなよ!)

 

 

Mはその夜は実家で寝ると、翌朝お母さんに送られ又、病院へと戻りました。

 

その日の午後に私がお見舞いに行くと…

 

M「Sー!サンキュー!来てくれて」

私「はいよー!お見舞いだ!」

 

私はMの好きなケーキと雑誌を渡しました。

 

M「やった!私の好きなケーキだ。後で食べよう」

私「個室なんて豪華やん笑」

M「相部屋が空いて無かったんだよ。何か、この病院気味悪いし相部屋のが良かったよ」

私「気味悪い??又、何か居てるって話や無いやろなぁ~?」

M「そんな話」

私「又かよー!今度は何よ?」

M「夜中に床を這い回る女が居る」

私「床を這い回る??」

M「うん。私の病室長い廊下の突き当たりじゃん?廊下をさ、下向いたまんま這って来た。だから、ナースコール押したけど反応無いから非常口から逃げて一階の窓から外出て、お母に電話して迎えに来て貰ったんだよ」

私「こわっ!ってか、後何日入院やった?」

M「2~3日。って言われては居るけど」

私「その間に又、来るんちゃう?」

M「だから、早めに退院させてくれ。って頼んだんだよ」

私「で?」

M「明日、退院出来る事になった」

私「良かったやん!今夜乗り切れば大丈夫やんな笑」

M「そう!お前も一緒にな!」

私「え?…意味が解らん…」

M「泊まれよ。個室だから今日一日だけだから、付き添いで泊まっても良い。ってさ!お母に頼んだんだけど、A一人には出来ないでしょ!って。ばぁちゃん旅行行ってるからA泊まりに行かせらんないしさ」

私「嫌や…」

M「友達だろ?」

私「…そうだったっけ?笑笑」

M「決まりな!」

私「まだ、返事してないやんか!」

 

 

 

こうして又もや私はMのお陰でとんでもない一夜を過ごす事になったのです。

 

 

夜になり、看護師さんが私の分の布団を持って来てくれました。

 

私「はぁっ……(ーдー)ホンマに泊まれと…」

M「当然だろ?友達何だから」

 

(嫌な予感しかせんぞ…。今夜も出て来たら、どーしよう…)

 

 

消灯時間の9時を過ぎたので病室の電気は消さなくてはならなくなり、ベッドのスタンドとテレビだけの明かりで私達は話をしていました。

 

 

そうこうして居る内に日付が変わる時刻になりました。

 

 

 

私「この前出て来たの何時やって?」

M「0時過ぎだったかな」

私「もう、過ぎたな?このまま何も無きゃ良いけど…」

M「だな。なぁ?トイレ行っとかない?」

私「そうやな。行っておこう」

 

私達は病室を出るとトイレに向かいました。

トイレは3つ有りましたが、順番で入る事にしてMが先に入り、次に私が入りました。

 

私がトイレに入ったかみたかに…

 

ペタッ…ペタッ…

 

ズルッ…ズルッ…

 

(うん?何や??)

 

 

M「S!ヤバイ!アイツだ!」

私「アイツ?アイツって、這い回ってた奴?」

M「そうだよ!早く出ろ!」

私「わっ…解った!」

 

 

私は慌ててトイレの個室から出ました。

二人で様子を伺って居ると…

 

 

ペタッ…ペタッペタッ…

 

ズルッ…ズルッズルッ…

 

 

私「どっちからだ?」

M「音的に又、ナースステーションの方からだ!」

私「どうする?」

M「走って非常口行こう!」

私「良し!行こう!」

M「良いか?絶対後ろ振り向くなよ!アイツと目を合わせたら駄目だ」

私「そーなん?」

M「勘だけど…。ヤバイ様な気がする」

私「解った!」

M「出るぞ!」

 

 

私達はトイレのドアを思いきり開けると、後ろを振り向かずに非常口まで全力で走りました。

 

ガチャガチャッ!!

 

M「あれっ!?」

私「何してんねん!早く開けろや!」

M「開かないんだよ!」

私「何でー!」

M「わかんねーよ!この前は開いたのに!」

私「どないすんねん!」

M「アイツ…こっち向かって来てる…!」

 

 

非常口が開かない限り他に逃げられる場所はMの病室しか有りません。

 

私達は非常口を諦め、Mの病室に逃げ込むと二人でドアを必死で押さえながら

 

私「アイツ、どの辺りまで来てた?」

M「トイレは通り過ぎてた」

 

ペタッペタッペタッ…

 

ズルッズルッズルッ…

 

 

M・私「来てる!」

 

 

私は心臓が口から出るじゃ無いか?と思う位バクバクしていました。

Mは、緊張した顔でドアの 向こう側に神経を集中しています。

 

ピタッピタッピタッ…

 

 

私「止まった…?」

M「…あぁ。止まった。この病室の前に居る」

 

 

カリカリカリッ…

 

 

(ドアを引っ掻いてる…?)

 

 

やがてユラユラと揺れながらドアの向こう側で女が立ち上がりました。

 

病室のドアは、上部に磨りガラスが嵌め込まれて居ます。

 

立ち上がった女は、磨りガラスに顔を押し付けて来て、こっちの様子を伺って居ます。

 

私達は恐怖で声も出せず、必死でドアを押さえながら磨りガラスを見つめて居ました。

 

カリカリカリッ…カリカリカリッ…!

 

 

女は顔を押し付けながら長い爪で磨りガラスを引っ掻いて来ます。

 

 

 

私「どうにかならんのか!ナースコールは!」

M「押してみる!ちょっと一人で頑張っててくれ!」

 

Mがドアから離れた途端に

 

ガタガタガタガタッ!!

 

女がドアを開けようとして来ました。

 

私「M!早くしろ!」

M「やっぱり駄目だ!反応しない!」

私「何だよ!壊れてんちゃうんか!」

M「いや。今朝は鳴ったし。ソイツの仕業だよ」

 

 

Mは戻って来るとドアを押さえながら必死でこれからどうするかを考えて居る様でした。

 

ガタガタガタガタガタガタッ!!

 

 

M「止めろ!何なんだよ。お前!消えろ!」

 

(開けて…)

 

私「開けるか!」

 

(開けて…)

 

M「うるさい!」

 

(開けろよ!!)

 

ガタガタガタガタッ!!ガタガタガタガタッ!!

 

私とMは必死でドアにしがみ付いて押さえ続けました。

 

 

暫くすると…

 

 

 

 

M「静かになったな…」

私「うん…。諦めたんかな?」

 

 

磨りガラスに押し付けられて居た顔も消えていました。

 

 

私「居なく…なった??」

M「どうだろう…」

私「開けてみる…??」

M「…うん」

 

 

私達は押さえて居た手を離すと、ドアを開けようとしましたが、開きません。

 

M「開かない!」

私「何で!」

 

(アハッハッハッハ!!)

 

突然背後から大きな女の笑い声がして、私達は驚いて振り返りました。

 

 

すると…

 

 

 

 

さっきまで、ドアの向こう側でガリガリしながら(開けて…開けて…)言って居た女が四つん這いでベッドの横に居たのです。

 

 

(開けなくても入れてるやんけ!)

 

 

下を向いて居た女がゆっくりと私達の方へ顔を上げました。

 

ペタッペタッペタッ!!

 

素早く四つん這いで這って来ました。そして…

 

ニヤ~ッっと笑いました。

 

私達は叫び声を上げながらドアを必死で蹴りました。何度目かでやっとドアが開きました。

私達が駆け出すのと、ナースステーションから看護師さんが走って来るのと同時でした。

 

看「こんな時間に何を騒いでるの!!」

私「女が…女が…」

看「女?女って?」

私「四つん這いの女が、病室に居て…」

看「は??」

 

看護師さんは意味が解らない。みたいな顔でMの病室に入って行きました。

 

看「誰も居ないじゃない!隣の病室の患者さんが貴女達が騒いで居て眠れない。って言いに来たのよ!明日、退院出来るんだから静かに寝なさい!」

M「すみません」

 

私達は看護師さんに促されて病室に恐る恐る戻りました。

女の姿は何処にも有りませんでした。

 

 

私「何で、看護師さんに言わなかったんよ?」

M「知らないんだな。って思ったから」

私「知らない?」

M「あぁ。さっきお前が、四つん這いの女。って言っただろ?でも、あの看護師さん変な反応しなかった。(何を言ってんだ?お前は)って顔してた。だから、言っても信じない。って思ったから言わなかった」

私「なら、あの女この病院で死んだとかや無いのんかな?」

M「さぁ?解らない。お母なら解るかも知れないけど」

私「もうじき3時半だな。随分時間経ってたんやな」

M「疲れたな…」

私「ホンマにお前と居ると疲れるよ。いい加減もっと楽しい経験させて欲しいわ」

M「色々刺激的だろ笑笑?」

私「こんな刺激もう要らんし!」

 

私達は結局その後も一睡も出来ず、Mのお母さんが来て退院の手続きをしている間にも、あき竹城さんの様な看護師長さんに昨晩の騒ぎの件でこんこんとお説教されました。

 

Mは黙ってお説教を聞き、謝って居ました。

私は「四つん這いの女が出て来なきゃ騒ぐ事も無かったんですけどね。すみませんね」

と、小さい声で言うと…

 

みるみる看護師長さんの顔が強張って行きました。

 

私はMの方を見るとMも怪訝そうな顔で看護師長さんを見て居ました。

そこへ、Mのお母さんが戻って来て

 

母「二人とも帰るわよ」

 

私は看護師長さんの反応が気になりましたが、Mは何も言いませんでした。

 

帰りの車の中で

 

私「あの看護師長なんか知ってるっぽかったやんな?」

M「あぁ。知ってると思う。多分、先に私らを怒った看護師はまだ若かったから知らなかったんだろうな。昔なんかあったんじゃないの」

母「あの病院に殺されたんだろうね」

私「え??」

母「医療ミス」

私「あぁ~」

M「やっぱり解ってたんだ」

母「多分だよ。あんた達、元気そうだから羨ましかったんじゃない笑」

 

 

あの病院で過去に何があったのか、真実は解りませんが私はMのお陰で又、とんでもない経験をさせられました。

 

Mとの経験談は、まだまだ有りますので時間が空いた時に又、書かせて頂きたいと思います。

 

長々とお付き合い頂きましてありがとうございました。

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