夜の裏通りは不気味だ。いくら三人一緒にとはいっても、やはり気味が悪い。
俺たちは今、塾の帰り道。3台の自転車をたて一列にして走る。
「なーんか、夜の観覧車ってでかく感じるなぁ」
そう、俺たちはそれほど大きくない、地元の遊園地の脇を通っている。
大通りよりも、こっちのほうが近道なんだ。
「あれっ?」
悠介(ゆうすけ)のすっとんきょうな声の共に自転車も止まった。
「なんだよ、変な声出すなよな」
おくびょう物の健太が、ゴクリとつばを飲み込みながらそう言った。
「だってほら、裏口の扉が開いてるぜ」
本当だ。遊園地の裏口が開いてる。
俺はサドルから飛び降りた。
「いっちょ、入ってみるか。誰もいない夜の遊園地なんて、めったに入れないぞ」
俺の言葉に、悠介と健太は顔を見合わせ、ちょっとの間を置いてからこっくりとうなずいた。
三人がそれぞれに自転車のスタンドを立て、鍵をかける。
裏口の扉は、ちょうど俺たちがまっすぐ立って入れるくらいの大きさだ。
大人だったらわ腰をかがめなくちゃ入れないだろうな。
田舎の遊園地だからか、夜は7時までしかやってないんだ。
どこもかしこも照明が消されて、辺りは真っ暗。
だけど……….あれっ?
「なんかさぁ、観覧車、動いてるような気がするんだけど」
健太の言葉に、目の前の観覧車を見上げる。
「本当だ。何だこれ。動いてるじゃん」
「もしかして、係の人が明かりだけを消して、モーターのスイッチを消し忘れたんじゃねえの?」
「そんなドジな話があるかなぁ」
ちょっと信じられなかったけど、現実に動いているものは動いてるんだ。
「ふーん、『事実は小説よりも奇なり』ってやつだな。…………おい、これって乗れるんじゃないかな」
そうだ。きっと乗れる。だって観覧車の扉って、係の人が手で開け閉めしてるもんな。
「よっしゃ、確かめてみようぜ」
俺を先頭に柵を乗り越え、観覧車の真下にきた。
そして目の前を通過しようとする観覧車の扉に手をかける。
「おい、開いたぞ。そりゃっ、乗っちゃえ!」
見事成功!
「やった。これ何周してもただだぜ。すげえラッキー!」
悠介も健太も大はしゃぎだ。まあ、俺もだけどね。
とりあえず各自がケータイで、「健太の自転車のチェーンが切れたから修理している。だからちょっと帰りが遅くなる」って電話した。
これでしばら
くの間、タダで夜の遊園地が楽しめるってわけだ。
「それにしてもさ、俺たちの町って、やっぱ、田舎なんだな。『夜景が綺麗』とか、全然ないもんな」
「ああ、大通りのあたりしかわかんねえ。あんまり面白くねえな、これ」
ちょっと予想外。と、その時、もっと予想外の事が起きた。
悠介がそうっと人さし指を上げる。
「おい、俺の気のせいかな。俺たちの前のゴンドラに誰か乗ってる」
そんな馬鹿な、と目をこらす。あ、乗ってる。たしかに乗ってる。
髪の長い女の子が1人で。
「さ、さっきは誰も乗ってなかったぜ。お、俺、降りる」
「バカ。どうやってここから降りるんだ」
そんなことを話してるうちに、その女の子がゆっくり俺たちの方を振り向いて、ニヤッと笑った。
「うわぁっ!」
俺たちは三人固まって、床にはいつくばった。
早く、早く一周して、地上についてくれって、それだけを祈ったんだ。
やがて一周したゴンドラから、転がるように俺たちは降りた。
「あ、あれっ、女の子がいない!?」
健太の言う通りだった。間違いなく乗っていたはずの女の子の姿がどこにもない。
「も、もう、帰ろうぜ。出口どこだっけ」
まずい。方向がわからなくなった。
「とにかく歩け」
メリーゴーランドの横を通過する。と、そのメリーゴーランドがいきなり回りだした。
そしてそのつくり物の馬には、白い服を着た人、黒いガウンを着た人、体が半分すきとおった人など、ようするに、その、なんだ………….、
幽霊たちが楽しそうにまたがっているんだ。
「ひぇ〜っ!」
俺たちが腰を抜けた。その場から動けなくなっちまったんだ。
すると、白い馬にまたがった青白い顔の幽霊が、ニヤッと笑いながら言ったんだ。
【人間ばっかり楽しむな。幽霊だって遊びたいんだ。ヒッヒッヒッ】
それから俺たち、その遊園地に行くことはなかった。
もちろん、塾の帰りにはちゃんと明るい大通りを通るようになったんだ。
ああ、怖かった。