ボ○○

まあオカ板らしい話なんだが、あんまり怖くないちょっと地味な話。普通の精神疾患は脳の内分泌異常が原因なので現代の精神医学は薬物療法が主流なのね(認知行動療法もまあまあエビデンスがあって使われてるけど)。でも、薬物療法が利かなかったり西洋医学不信がある一部の患者が「心理療法家」みたいなのを頼ったりする。で、私の知り合いに副業でそうした「心理療法家」をしている人がいるのだが、この人がいわゆるユング派の療法家なのです。ユング派の人はオカルトがかってるのが普通らしくて、この療法家のKさんが、十数年前に体験した話なんだそうだが、ちょっと興味深い話を聞かせてもらったので。

 

 

 

Sさんは、小学校低学年のころに母親が再婚したのだが、その義父が程なくしてSさんを性的に虐待するようになったそうだ。そして、Sさんは義父の性暴力の恐怖から逃れるためにか、家にいるときには空想にふけりがちというか、幼稚園児くらいの小さな女の子によくいるように「見えないお友達」と仲良くするようになったらしい。義父が来るのが夜だったので夜の恐怖を紛らわすためか寝る前に「ボ○○」という名前の竜が寝室にやってきて寝るまでお話をするんだそうだが、その「見えないお友達」は童話の『エルマーとりゅう』に出てくるような姿形をした竜で、本人にはそれが空想だという自覚はあるんだが、凄いリアルにまさにそこにいるのが「見える」のだったそうだ。

 

 

 

Sさんも義父から解放されて、全部を忘れて新しい人生が開けるんだと思ったそうだ。「見えないお友達」のボ○○も(それが虐待からの現実逃避の産物だという自覚はSさんにもあったので)、いなくなるんだと思った。ところがボ○○はいなくならなかった。義父の自殺によるゴタゴタが片付いた日の夜、ボ○○は寝室に現れて「ボクがアイツを喰ってやったんだよ」と言ったそうだ。訪問頻度はぐっと減ったものの、ボ○○は夜になると時折やってきた。Sさんも、義父が死んで解放されてから、だいぶ明るくなり、思春期だということもあって高校の同級生とかにときめくことがあった。だが、日中に何かそういうことがあると、その晩にはボ○○がやってくる。で「君に近づく奴はみんな喰ってやる!」というんだと。しかも、何回目か以降には、ボ○○が(嫉妬なのか?)怒り狂って、彼女を爪やなんかで傷つけるようになったそうだ。ボ○○との会話は夢現でのことらしく、しかし朝起きると、身体のまさにボ○○にやられたところになぜだかひどい引っかき傷(時には裂傷)がある。彼女はそのことにひどく怯えたのだが、しばらくするとそういうこともなくなった。

 

 

 

(おかげで勉強に集中できたということなのか)、彼女はいい大学に進学した。ボ○○の記憶も薄れて、彼氏もできた。大学卒業を期にその彼氏と結婚して専業主婦になり、子供を息子と娘との2人産んだ。ところが、30代半ばを過ぎた頃(つまりSさんが療法家のKさんに相談に来た頃)に旦那さんが飛び込み自殺をした。そして、旦那さんの葬儀などを終えたその日の晩に十数年ぶりにボ○○が現れた。「ボクがアイツを喰ってやったんだよ」といったそうだ。そしてまた毎日ボ○○が寝室にやってくるようになった。Sさんは久しぶりのボ○○に、忘れかけていた昔を思い出させられたせいか、非常な嫌悪を覚え、「二度と来ないで!」とボ○○に対して言った。するとボ○○はSさんの不実(?)をなじり、毎日彼女を責め立てるようになった。夫の自殺と相俟ってSさんは自殺を考え、ボ○○はそれを「いい考えだね!」と嬉しそうにいう。そして焦燥していくSさんを見かねた(ボ○○についてはなにも知らない)知人がKさんを紹介した。

 

 

 

KさんはSさんの話を聞いたときに「あ、これはあのテリトリーの話だわ」という直感が働き、知り合いのMさんという人に連絡をとったそうだ。そのMさんはいまの西洋オカルティズムでは主流ではないドイツ・オーストリア系の流派の人なんだと。経緯は普通ではないが、こういう「憑依」の事例と「エクソシズム」の相談は人づてにたまにあるらしくて、Mさんも「まあやってみましょう」と引き受けた。Kさんも流派は違うがオカルティズムには足を突っ込んでおり、興味があったのでお願いしたところ、やや渋られながらも「エクソシズム」の現場(Mさんが自宅と別に借りているマンションの一室)に立会を許されたそうだ。なんというか、道具立ては凄いクラシカルだったそうで、魔法円を書いて(つっても記号とかはなにもなくて単に床に円が書いてあるだけらしいが)MさんとKさんはその中に入り、魔法円の外側にSさんを椅子に座らせて、本人の承諾を得て身体を縛り付け、黒い鏡をSさんの側においたんだそうだ(その鏡にボ○○が映るということらしい)。

 

 

 

「追放」しようとしたらしい。この儀式はある意味ではもの凄く成功した。三人とも凄まじいラップ音を聞き、ものの焦げる匂いと硫黄の臭いを嗅いだ。鏡に映ったボ○○とMさんが対話するのだそうだが(ボ○○の言葉はMさんにしか聞こえない)、ボ○○は、まず説得しようとしそれがダメだとなって脅しにかかったMさんを嘲弄したらしい。で、その部屋になぜか霧らしきものが出てきたのか空気が霞み始めたんだそうだ。円の外側でその霧がどうも竜らしき形を取るに及んで、MさんもKさんも「これはマズい!」と思ったそうだ。結局そこで、Mさんはボ○○の呼び出しを中断しSさんから「追放」はできないまでも、少なくとも、その儀式の場から「退去」させようとした。そうしたら霧は渦を巻いてSさんの中に入ってしまい、しかしラップ音とかそういう現象はピタリと止んだ。

 

 

 

ことになって、そこでお終いにしたらしい。「これは結構大変な代物なんじゃないか」という話になって、Mさんの手には負えないか、いずれにせよもうちょっと本格的な儀式の準備をしないといけないだろう、ということになった。ところが、その儀式以降が問題だった。ボ○○は数日の間は鳴りを潜めていたのだが、Sさんのもとに、追い払おうとしたことについて怒り狂って訪れた。朝起きると、Sさんの身体が傷と出血で血塗れになっているという有様だったそうだ。Kさんはなんともなかったそうだが、Mさんは一週間もたたないうちに数回車に轢かれかかったり、ほかにも危険な目にあった。Mさんは「ああこれはボ○○のせいだな」と判断したそうだが、いかんせん自分では追放できるか心もとなく、スイスにいる自分の師匠に国際電話で相談したそうだ。そうしたらすぐに、Mさんのもとにお師匠からかなり深刻な様子で電話がかかってきた。Mさんの師匠は、Mさんの被ってる災難がかなり大掛かりで特殊なものだ、と判断したらしい。そして、ボ○○が竜であること、その出現がセックス絡みであること、義父と夫の自殺、交通事故の危険、などを考え合わせた結果、ボ○○がいわゆる死霊の類ではなくて、「火星」の惑星霊なのではないか、と指摘した。

 

 

 

納得したMさんは火星の惑星霊を追放する儀式を執り行うべく準備と下調べをしたそうだ。そうしたら、ある魔術書に「善い火星霊(ただし善霊でも超危険なので呼び出すな!)」として、まさに「ボ○○」という名前が載っていたという。Mさんは深く得心がいったそうだが(というのもボ○○はそもそもSさんを護るために現れたのだから)、未熟者が迂闊に呼び出すことを防止するためとして、そのシジルはその魔術書には掲載されていなかったのだそうだ。シジルがなくても、ボ○○が火星霊だということさえわかっていれば、効果的な追放儀式ができるので、Mさんは直ちにKさんとSさんとに連絡をとり、ボ○○が強大な善霊だということを踏まえつつ適切な儀式を行い、穏便にお引取りを願うことができた(今回はKさんは立会を許されなかったそうだ)。その後、Sさんは心理的にはすっかり回復し、療法家のKさんとしては一件落着ということになった。

 

 

 

それによると、そのレベルの強大な火星霊はそのように強力に実体化しているなら、場所を移して「引越」はしてもらえるかもしれないが、「追放」することはできない、ということだったそうだ。果たせるかな、Mさんがオカルト作業用に借りていたマンションの周辺地域では交通事故や傷害事件がやたらと頻繁に起きるようになったそうで(もともと周辺地域の治安が良くはなくお陰で家賃が安いということで借りていたそうだが)、最後には当のマンションで殺人未遂事件が起こるに及んで、Mさんは「Sさんから離れて野放しになったボ○○がその辺りをほっつきまわってるってことかなあ」といって、そのマンションの部屋を引き払ったとか。まあこの話自体はだいぶ前の東京での話なわけだが、ボ○○は野良精霊なので、もし「ボ○○」の名前と姿がわかっていると、迂闊に思い浮かべて意識的に呼んじゃったりしてこの話を読んだ人のところにやってきちゃうかも、ということだったので伏字にしました。うーん……オカルト話ではあるけどあんまり怖くない話だね。すまん。

 

                                                                                                                                                                                                                                               

                                                                                               

 

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