空き家の子供

高校2年の夏休み、俺は部活の合宿で某県の山奥にある合宿所に行く事になった。現地はかなり良い場所で、周囲には500m~700mほど離れた場所に観光地のホテルやコンビニなどがあるだけで他には何も無いけれど、なんか俺達は凄くわくわくしてはしゃいでいたのを覚えている。その日の夜の事。暇をもてあました俺達は、顧問の先生の許可を貰いコンビニまで買出しに行く事にした。わいわい騒ぎながら10人ほどで外にでて歩き始めると、昼間はそちらのほうに行かなかったので気付かなかったが、合宿所の裏手に家らしき建物があるのが解った。その建物には明かりがついていなかった。多分空き家か民家っぽいけど別荘か何かなんだろうと思われた。友人が調子の乗って「あとで探検いかね?」と言い出したが、あまり遅くなると顧問の先生にドヤされるし、ひとまず買い出し終わってから合宿所内で今後のことは考えようという話になった。

 

 

 

その夜、なんか中途半端でモヤモヤして寝れない俺達がこれから確認に行くか、それとも昼間行くかを話し合っていると、部屋の窓がドンドン!と叩かれた。窓の外に人影も見える。俺達はさっきのこともありビビりまくっていると、外から「おーい、あけてくれ!」と声が聞こえてきた。カーテンをあけると、そこには昼間仲良くなった他校の生徒5人がいた。やつらはどうも窓の外にある20cmくらいの幅のでっぱりをつたって俺達の部屋までやってきたらしい。5人を部屋の中にいれると、どうもやつらも俺達と同じ話をしていたらしく、これから例の家に行く事にしたので俺達を誘いに来たらしい。俺達もそれで決心が付いたので、これから肝試し?に行く事になった。メンツは、うちの学校からは俺、A也、B太他校からはC広、D幸、E介他のやつは何だかんだと理由をつけて結局来なかった。

 

 

 

その後、E介は救急車で運ばれた。俺達は先生方に散々説教をされ、こんな事件があったので合宿はその日で中止となった。帰宅準備をしていた昼頃、十台くらいの数の車が合宿所にやってきた。中から20人ほどのおじさんやおじいさん、あと地元の消防団らしき人が降りて顧問の先生たちと何か話しをすると、合宿所の裏に回り例の家の周りにロープのようなものを貼り柵?のようなものを作り始めた。俺達は何事なのかと聞いてみたが、顧問の先生たちは何も教えてくれず、そのままバスで地元へと帰った。E介は2日ほど入院していたが、その後どこか別の場所へ運ばれ、4日後には何事もなかったように帰ってきた。後から事情を聞いてみると、E介には家に入ったところから昨日までの記憶が何もなかったらしい。

 

 

 

E介が帰ってきた日の夜、俺が自分の部屋で寝転がってメールしていると、一瞬「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」というあの声が聞こえた気がした。びっくりして起き上がりカーテンを開けて外を見たりしたが、いつもの景色で何も無い、俺は「気のせいかな?」と起き上がったついでに1階に飲み物を取りに行くことにした。俺の家はL字型になっていて、自室は車庫の上に乗っかるような形になっている。冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し2階へ上がると、丁度階段を上がったところの窓のカーテンの隙間から僅かに自室の屋根の部分が少し見えた、すると屋根の上に何かがいる…この前あんな事があったばかりなだけに、ビビりまくった俺が窓からカーテンを少し開けて外の様子をのぞくと、屋根の上に和服を着た子供が両手を膝の上にそろえて正座しているのが見えた。それだけでもかなり異様な光景なのだがそれだけではなかった。子供は体を少し前かがみにして下を覗きこむような姿勢なのだが、首のあるはずの部分から細長い真っ直ぐの棒のようなものが1mほどのびていて、その先にある頭が俺の部屋の窓を覗き込んでいた。

 

 

 

おじさんは続けて。ただ今回は何かおかしいのだという。普通祠をつくって奉ればそれで終るはずなのだが、今回はどういうわけだが逃げられてしまってE介がまた被害に会い、しかも俺のところにまで現れている。それに、そもそも現れるだけでも珍しい「ひょうせ」が自分達の村とその周辺以外に現れるというのも全く前例がないうえに、「ひょうせ」が前回子供を襲ったのは20年ほど前で「早すぎる」のだそうな。ただ、おかしいおかしいといっても現実に起きてしまっているのだから仕方が無い。俺達は学校で村から来たお坊さんに簡易的な祈祷をしてもらい、お札を貰って君たちはこれで大丈夫だろう、と言われ帰された。ちなみにE介に関しては、暫らくお寺で預かって様子を見て、その間にもう一度祠を建てて「ひょうせ」を奉ってみるとの事だった。学校から帰された俺達は、各々迎えに来ていた親に連れられて帰る予定だったのだが、話し合ってひとまず学校から一番近い俺の家に全員で泊まることにした。安全と言われていてもやはり不安だし、全員でいたほうが少しは心細く無いと思ったからだった。その夜、俺達が部屋でゲームしているとコン…コン…コン…コン…と窓を規則的に叩く音がした。

 

 

 

“それ”の棒の先にある頭だけがカクンッという感じでこっちを向いた。俺達は顔をはっきりと見た。”それ”はおかっぱ頭で笑顔の人形だった。ただし、ただの人形ではない。顔は人形特有の真っ白な肌なのだが、笑顔のはずの目は中身が真っ黒で目玉らしきものが見えない、口も同じで、唇らしきものもなくそこにはやはりぽっかりと真っ暗な三日月状の穴のようなものがある。それでも、目や口の曲線で「にっこり」と言う感じの笑顔なのが解るのが余計に不気味だった。親父が「だからお前ら何やってるんだ?」と窓のところに来てカーテンを全開にすると、それはサッ!と屋根の影に隠れて見えなくなった。が、親父にも一瞬「何かがそこにいた」のは解ったらしい。親父は大慌てで1階に降りると、携帯でどこかに電話をし始めた。どうやら昼間祈祷をしてくれたおぼうさんやおじさん達の連絡先を聞いていたらしく、そこと顧問の先生のところに電話しているらしい。その後、影に隠れたきり”それ”は二度と姿を現さなかった。

 

 

 

そして、暫らく話し合った後俺達に状況を説明してくれた。結論から言えばひょうせに憑りつかれていたというのは全くの勘違いで、どうも俺達に付き纏っているものの正体は全く別の何からしい。俺は「今更それはねーだろ…」と思った。おじさんが続けた。最初状況を聞いたとき・子供のような姿・笑い声・生徒がおかしくなって笑いながら泣いている・村の近くと言う状況から「ひょうせ」だと思ったらしいが、どうも今詳しく話を聞いてみると、ひょうせのしわざと症状は似ているが、姿形がまるで伝承や過去の目撃証言と違うらしい。そもそもひょうせというのは、子供くらいの姿をした毛むくじゃらの猿のような姿で、服も着ていないしおかっぱ頭でもないし、当然首ものびたりもしないようだ。笑い声も俺達の聞いたようようの無い機械的なものではなく、笑い声といっても猿の鳴き声に近いとの事だった。

 

 

 

俺達は途方にくれてしまった。ぶっちゃけこの寺に来れば全部解決すると思い込んでいたのに、今更「なんだかわからない」ではどうしたらいいのか…室内が重苦しい雰囲気になり、皆しばらく沈黙していると、お坊さんがこう言ってきた「とりあえず何か良くないものがいるのは間違いない、少し離れたところにこういう事に詳しい住職がいるので、その人を応援に呼んでくる、暫らく皆座敷でまっていてほしい」そういうと、車に乗りどこかへ行ってしまった。俺達は座敷に通され呆然としていた。おじさんはしきりにどこかへ電話をし、かなりもめているように見えた。夕方になり、お坊さんが別のお坊さんを連れて戻ってきた。お坊さんが戻ってくると同時に、さっきのおじさんが携帯を片手に「えらい事になった!」とお坊さんのところに走り寄って来た。話を聞いていると、どうも村の子供が1人E介と同じ症状でいるところを発見されたらしく、これからこっちへつれてくるという。この寺のお坊さんが俺達に「とりあえず後で話をするから、ひとまず君たちはさっきの座敷で待っていてくれ」というと、大慌てで2人で本堂のほうへと歩いていった。

 

 

 

それから15分ほどすると、ワゴン車がやってきた。車の中からはE介のときと同じようにけたたましい笑い声がする。車の扉が開き、中から数人の大人と笑い声を上げる以外身動き一つしない中学生くらいの子供が運び出され、本堂へと連れて行かれた。暫らく本堂の中から「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」という笑い声とお経を読む音が聞こえていたが、それも10分くらいで収まり静かになった。それから更に15分ほどすると、お坊さん2人が俺達のいる座敷に入ってきて、色々と説明し始めた。さっきの子供のほうは、消耗が激しいので本堂に布団を敷いてそのまま寝かせているらしい。応援でやって来たお坊さんによると、どうも話を聞いた感じやさっきの子供の様子から見て、幽霊や妖怪のようなものが原因ではなく、何かしらの呪物が原因ではないかという。特に根拠があるわけではないけれど、感覚的にそう感じるらしい。

 

 

 

そして、呪物の類だとすると、と前置きし。恐らく祈祷で呪物と君たちの「縁」を切ってしまえば、なんとかなるのではないかと、そして、できればその人形も供養してしまいたいとのことだった。とりあえずそういう話でまとまったという事で、俺達もそれで解決できるなら早くしてほしいと、話がまとまた。と、その前に俺はずっと我慢していたのだがトイレに行きたくなった。事情を話し、「でも一人じゃなぁ…」と思っていると、他のやつも全員我慢していたらしく、結局6人で連れションすることになった。トイレからの帰り道、本堂へ続く廊下を歩いていると、どこからか「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という例の抑揚の無い声が聞こえてきた。場所は解らないが、あれがすぐ近くにいるようだ…C広が「近くにいるよな…」というとA也が「かなり近いぞ、やばくね?」と返した。たしかにかなり近い、でも姿は見えない。すると最後尾にいたE介とD幸が「やばい、早く本堂に逃げろ!」と窓の上のほうを指差しながら叫んだ。

 

 

 

俺達が指差した方向へ振り向くと、それはいた…前と同じように屋根から頭だけを突き出し「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」と笑いながら例の真っ黒な目と口の顔をこちらに向けながらニコニコと笑っている。俺たちは全力で逃げ出した。本堂に着くと、お坊さん2人とさっきのおじさんが待っていた、今になって気付いたのだが、おじさんはどうもこの村の村長さんらしい。俺達が事情を話すと、お坊さん達はすぐさま俺達を座らせお経を読み始めた。暫らくお経を読んでいると、本堂の天井のほうから「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という例の笑い声とコツ…コツ…という俺の部屋で聞いたあの音が聞こえてきた。俺達はビビりまくって身を寄せ合っていた。暫らくすると声が聞こえなくなった、俺が「終ったか?」言い切らないうちに、今度は本堂の横の庭のほうから

 

 

 

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という声が聞こえ始めた。そして、薄暗くなり始めた本堂の障子に、夕日に照らされたあの人形のあたまが映し出された。あたまはユラユラ揺れながら相変わらずあんぽ不気味な笑い声で笑っている。その時、俺は恐怖心と不安感と連日の寝不足でもう耐えられなくなって、ちょっとおかしくなっていたんだとおもう。人形の影を見て、恐怖心よりもその姿にイラつきはじめた。ユラユラ揺れている姿を見ると、とにかくなんだか良く解らないがムカついてきて、とうとう我慢できなくなった。俺はお坊さん達がお経を読んでいる横の鉄の燭台を掴むと、蝋燭もささったまま引き抜き、周りが制止するのも振りきり障子を開けた。目の前にあの人形の顔があった。一瞬俺は恐怖心に襲われたが、怒りとイラつきが勝ってそのまま燭台をぶら下がっている人形の頭めがけ「ふざけんなーーーーーーーーーー!」と叫びながら振り下ろした。

 

 

 

バキッ!という音がして燭台の先端が人形の顔にめり込み、そのまま人形は地面に落下した。俺は裸足のまま庭に下りると、更に燭台を振りかぶり人形に打ち下ろした。すると、なにか頭の中に妙な感覚が芽生え始めた。人形はそれでもなお「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」と無機質に笑っている。俺はおかしくも無いのに笑いたくなり、なきたくも無いのに目からボロボロと涙が零れ落ちてくる。明らかにE介たちと同じ状況になりつつあるのだが、それでも俺は燭台を振りかぶり人形に打ち下ろすのをやめなかった。あとから話を聞くと、俺はゲラゲラと笑いながら無表情でボロボロと涙を流していたらしい。暫らくそんな状態が続いていると、どうも燭台に残っていた蝋燭の火が人形の服に燃え移ったらしく、人形が煙を上げて燃え始めた。友人たちによると、人形の

 

                                                                                                                                                                                                                                               

                                                                                               

 

最新情報をチェックしよう!

中編の最新記事8件

You cannot copy content of this page