開かずの間

その家は建て替えたためもう存在しないが、今となってよく考えるととても奇妙な家だった。一階は普通の日本家屋なのだが、2階の造りがどうもおかしい。二階に上がるためのメインとなる階段と、裏口から入ったところにひっそりと設えられた細く急な階段。メインの階段は気味が悪いだけでそれ以外は何も無かったが、細い階段から見上げる二階は妙に暗く、子供心に恐ろしかったのを覚えている。で、肝心の2階なのだが、まずあがりきったフロアの隅に、古い火鉢や茶碗、タンスなどがまとめおきされており、掃除もほとんどさておらずとても不気味だった。。そして、奥が部屋となるわけだが、ゆったりとした間取りの一階とくらべ、3~4畳程度の狭い部屋が7つ(か8つ)もあり、手前の2部屋を除いて誰も使っていなかった。昼寝をしていた僕が目を覚ましたは18時半過ぎ。家にいたのは僕と婆様だけでやることがない。ロータリースイッチ式のテレビをつけては見たが、特に面白い番組もない。退屈しのぎに、「何か飲み物ない?」尋ねてはみたが、何もないという。サイダーを二本買ってくるように頼まれた僕は600円もらって外へ出た。夕焼けがとても赤かったことを覚えている。鮮やかな緑色をした、1L入りのサイダー(スプライト)のビンを自販機から取り出し、冷たいそれを両脇に抱えながら家の前に着いた僕は、なぜかすっと二階を見上げた。見上げると、普段は開いてるのを見たことがない二階の鎧戸が開いており、そこから白い顔をした女の人が見下ろしている。よくみると、顔が白いんじゃなくて、白粉で塗り固めた着物を着た人だった。その人は僕を見るとにこりと笑いかけ、袖を振った。なぜか猛烈にぞっとした僕は、急いで家に入ると、婆様に誰かが二階にいると伝えた。「そがんことあるはずなかやっか」と言われ、夕食ができてるから手を洗って来いと婆様。「いや絶対居た!」という僕に、「なら見てこんね?」と婆様。怖がりと思われたくなかった僕は、仕方なく二階にあがることにした。

 

 

 

 

 

 

 

一段踏むたびにギシギシ音を立てる階段にビビリつつ、僕は15段ほどの階段を上りきった。階段に一番近い部屋のふすまは開いていて、そこから夕日の残光が弱弱しく天井に向けて射している。つばを飲み込むと、僕は這うように奥の部屋に向かった。女の人が顔を出していたのは一番奥の部屋で、僕は夕日の残光を背に、暗い廊下をそこに向かってすすんだ。廊下は階段同様に、歩くたびにみしみしと音を立てる。奥の部屋に付く頃には四本足だった僕はそこでやっと二本足になって、ふすまの取っ手に手をかけた。さすがに一気に開けるのはためらわれたので、音を立てないように、ゆっくりとゆっくりと開いた。10cmほど開けただろうか。中を覘いてみたが真っ暗な部屋の中、わずかに藍色の光が見えるのは、鎧戸の隙間だろう。隙間に近づけた顔に閉め切った夏の部屋特有の熱気と臭い。そしてそれに混じる畳の香り。何もなさそうなので思い切ってふすまを開いたが、婆様の言ったとおり何も無かった。誰もいなかった。なら、僕が見たのはなんだったのだろう。釈然としないままふすまを閉めると、僕は一階に降りるために廊下を歩き出した。と、5歩も歩かないうちにぽんと肩をつかまれた。ぎょっとして振り向くと先ほどの女の人が見下ろしている。白粉の匂いがした。「こりゃ。覘いたらいかんやろ」僕は声も出ないまま、その手を振り解き、一階へと駆け下りた。婆様と、ちょうど帰ってきたばかりの叔父にこれを伝えて探してもらったが、やはり何もいなかった。僕の体験はというと、「夢か寝ぼけていた」で済まされてしまった。ちなみに、僕は建て替えるまで、その家の二階に上がることは無かった。以上でございます。

               

                                                                                                                                                                                                                                               

                                                                                               

 

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